JOURNAL>> 工芸とアートの間で。:染師 廣瀬雄一

JOURNAL>> 工芸とアートの間で。:染師 廣瀬雄一

2023コレクションでは江戸小紋に焦点を当て、100年以上の歴史を持つ廣瀬染工場の四代目、廣瀬雄一さんにご協力いただきました。
江戸小紋の魅力から、伝統工芸の後継問題、技術と芸術のバランスまで、eit swimが聞きたいことを廣瀬さんにインタビュー。



—-廣瀬さんは今、顧客や問屋さんから発注されて作っているのか、ご自身のクリエイションとして製作しているのか、どういう形でお仕事をされることが多いんですか。

廣瀬染工場はもともと着物問屋さんからの注文を受けて、その下請けとしてやっていました。が、僕の場合は主にクリエイションとして創ることが多いです。職人的な仕事の場合もありますけど、作家としての製作はやっぱり楽しいです。

—-作家としてどのように個性を出すのでしょうか。
もともとある古い型紙も、色を新しく調合することで新鮮に映るんです。逆にあえてクラシックな色でそのまま染める場合もある。まったく新しいデザインを型から起こす(型を型彫り師に注文する)ケースもあります。

 

 

—-江戸小紋の魅力を、廣瀬さん自身はどのようにお考えですか?
江戸小紋は東京の文化を象徴する染め物。徳川時代の質素倹約という状況下で自己表現として生まれて、京都の“雅”とはまた違う良さがあります。デザインがかっこいいか、かっこ悪いかというよりも、柄ひとつひとつに意味がありストーリーがあるということが重要だったんですよね。日本の工芸の良さはどことない素朴さにあると思っています。
逆にeit swimさんは今回なぜ江戸小紋がいいと思ってくださったんですか?

—-日本にはたくさんの素晴らしい伝統工芸があっても「伝統工芸」という響きだけでどこか「渋いもの」みたいに壁が生まれたり、日常生活からは遠いものになってしまっている感覚があります。実は日本伝統の柄や染め物って現代のファッションに落とし込んでも普通に可愛いんだということを示したくて伝統シリーズを始めました。江戸小紋はまさに日本人の美しさ、細やかさ、技術の高さの賜物。近くに寄って小さな点々だと気づいた時の感動がすごい。この粋な文化に惹かれました。
そう言っていただけて嬉しいです。「粋」という言葉も、英語でもフランス語でも直訳することができない、日本特有の文化ですよね。

—-その事実にもまた「粋」を感じます。江戸小紋は海外での評価も高いとか。
江戸小紋は19世紀ジャポニズムのときフランスに出ていきました。イギリスのウィリアム・モリスも影響を受けたと言われています。僕もパリで展示会や個展を行うと、こんなに細かい紋様は日本にしかない、と驚かれます。

—-その繊細な技術についてですが。上質な和紙があったことで発展したと以前お話ししてくださいましたよね。
はい、上質な和紙が日本の伝統工芸の原点だと思っています。あらゆる工芸の基礎になっているんじゃないか、と。江戸小紋の型紙も和紙でできています。上質な和紙とそれを細かく切ることができる刃物が日本にあったことでこの文化が生まれました。僕たちの型紙は和紙の中でも特に繊維が細かい美濃和紙を使っています。

—-代々受け継がれていく型紙が、こんなに薄い和紙でできていることに驚きました。
そうですよね(笑)。もちろん有限ですけど、そもそも和紙が丈夫だから成り立ってるんです。

 

—-そんな伝統工芸を受け継ぐ職人さんが少なくなっていると聞きます。
江戸小紋にも限らず、日本の伝統工芸の問題は後継者の育成にあります。展示会でパリに行って思いましたが、日本だけじゃなく世界で伝統産業の衰退が始まっています。大量生産、大量消費の世界では効率の良さを求めすぎているんです。
職人の生活が厳しくなり、伝統工芸の道で何世代もやってきている家族が、継ぎたくない、継げない、継がせたくない、となってしまっているのが現状なんです。

—-何か策はあるのでしょうか。
自分が今楽しいのは自由にモノを創れているからだ、と再認識しました。結局そこの一番星になって頑張っていくしかないのかなと。残ったものが最後勝つんです。僕ら職人が自力で突破していかなきゃいけない部分でもあるのかもしれません。

—-伝統工芸のアート性をもっと強くアピールしていくというのはどうでしょうか。
職人はつきつめると、アート性より技術性のほうが高くなる。技術が高いほど工芸としての価値も上がるんです。逆にアート性が高いと技術性が低くなりやすい。両立が難しいんですよね。

—-なるほど。廣瀬さんのようにクリエイティブに伝統工芸を表現したり、新しいことにチャレンジする職人さんがいると、その道がもっと魅力的に見えるような気がしました。
基本的には技術を守っていく、継承していくということが一番重要。これまで守られてきた先代たちの想いは大切にしていきたいんです。そのうえで新しいデザインや素材、コラボレーションを通して、手づくりの美しさをより広く伝えていけたらと思っています。

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