JOURNAL>> 海に落とす、藍染のひとしずく。:藍染師 品田彩来
Share

2025年の新作柄を手がけてくださったのは、千葉県九十九里にある藍染工房〈NORABI〉の品田彩来さん。かつて女子サッカー選手として世界を巡った彩来さんは、引退後、環境問題への関心をきっかけに藍染の世界へと歩みを進めました。
彼女とeit swimチームが出会ったのは、工房を立ち上げたばかりの頃。ご近所だったこともあり、前を通るたびに物干し竿に揺れる藍色の布が目に入り、心がわくわくしたのを覚えています。
今回のインタビューでは、藍染との出会い、環境への想い、そして制作していただいた柄についてお話を伺いました。
── 藍染を始めたきっかけを教えてください。
サッカーを辞めた理由は、気候変動に関わる活動をしたいという想いがあったからです。ただ、ただ、引退後に改めて環境問題について勉強し直したとき、自分なりに学んでいたつもりでしたが、実際はまだまだ知らないことばかりでした。きっと、一般的にも知られていないことが多いのではないかと思ったんです。 その上で、これから関わっていきたいこと、自分ができることを書き出し、世界の流れも整理していくなかで、生物学、アート、アパレル、農業、繊維、薬効など、自分の関心があるものが藍染には含まれていることに気がつきました。歴史が深いことも知り、少しやってみよう、もっと知ってみたいという想いから学び始めました。化学結合によって青く発色することや、原料が循環に適していることにも大きな魅力を感じました。
── サッカー選手時代に、どのように環境問題への関心が芽生えたのでしょうか?
もともと両親が環境への関心が強く、日常の中でもそういった話題に触れる機会が多くありました。兄は文化人類学の学者でありながら映像作家でもあり、アマゾンの熱帯雨林に1年間滞在してリサーチを行い、ドキュメンタリーを制作したこともあります。そんな背景からアマゾンでの森林火災の問題を目にすることもあって。特に2019年ごろから、地球全体が一段階別のフェーズに入ったような感覚がありました。
プロサッカーには資本主義的な構造があって、女子サッカーも徐々にそういう方向に向かっているような感覚がありました。好きだったから、夢だったからという理由だけでは続けられないと思うようになったんです。


── 日本人として藍染に取り組む意味について、どのように感じていますか?
藍染は日本の伝統文化なので、日本語でなければ伝わらないことがある。海外とのつながりが深まる今だからこそ、日本人が藍染を担っていくことには意味があると思っています。
私にできることは、大海原のほんの小さな1滴みたいなもの。でも、それが波紋のように大きく広がっていってくれたらいいなと。環境問題は考えすぎると規模が大きすぎて無力感がすごい。だからこそ原点に立ち返って、自分にできること、持っている知識や興味を活かしたいと思ったんです。
── 実際に藍染の世界に入ってみて、どんなことが大変に感じますか?
もちろん大変なことはたくさんあるんですが‥‥サッカー選手になるまでに経験した厳しいトレーニングや、プレッシャー、競争、精神的な負荷といった日々と比べると、今はそんなに大変だとは感じないです(笑)。選手時代はメンタル、フィジカル共に毎日トレーニングしていたので、日々の作業を続けることには抵抗がありません。むしろ競争がない分、いまのほうが穏やかに過ごせている感じです。

──今後は“すくも”作りへの取り組みも考えているとか。
(すくも:藍の葉を乾燥させて堆肥化したもの。藍染の染料となる)
はい、何年もかけて乾燥葉を集めているところです。今はすくもの作り方を学んでいる最中で、これから少しずつ自分で作ろうと考えています。
春に藍を植えて、夏と秋にそれぞれ一度ずつ収穫し、乾燥させた後に葉だけを使って3〜4ヶ月かけてコンポストにします。そこに水だけを加え発酵させます。さらに、広葉樹の灰にお湯を注いで沈殿させ、ミネラル分を含んだ上澄み液をすくもと混ぜて温め、二重発酵させるという工程があります。灰は、薪ストーブを使っている方々や、暖炉のお店、里山の活動団体などから分けていただいていて、お礼に藍染の作品をお渡しすることもあります。
すくも作りは結構大変で、染めと並行して行うのはなかなか難しいんですよね。無農薬、無化学肥料不耕起栽培で進めていきたいと考えています。

──eit swimの藍染シリーズはこれが2シーズン目となりますが、私たちもその魅力にのめり込んでいます。視覚的な美しさ、色の普遍性はもちろんですけど、ファッション性も高いですよね。
私も藍染に惹かれたのは、この青色。青は世界共通で誰もが身にまといやすい色ですよね。特別青が好きだったわけではないんですが、気づけば手元には青い服が多くて。自然と惹かれていたのかもしれません。
──今回eit swimのために制作していただいた2柄について教えてください。私たちからは、縄文土器っぽさをイメージした繊細な「ライン」と、薄めの「マーブル」というざっくりとしたオーダーをさせてもらいました。
「ライン」は正藍染の絞り染め。もともとペンアートが好きで子供の頃から絵を描いていて、細かい線だけで表現したり、空間を活かしたりするのが好きなんです。その感覚を絞りで表現しました。絞りは手縫いが主流ですが、今回は「紐」で縛っています。実は縫うより難しい部分もあります。
「マーブル」は、正藍染の特徴である淡い色合いを活かして仕上げました。本藍だと一度で濃く染まってしまうんですが、正藍は発酵の仕方が違い、淡い色も出しやすいんです。薄く、もやもやとした表情を出したくて、何度も何度も重ねて染めました。
── 今後の展望について教えてください。
もともと自分のブランドを立ち上げることを目標に活動を始めたので、〈NORABI〉としての世界観を少しずつカタチにしていきたいと考えています。そして染めだけでなく、すくも作りなど、より “循環する”ものづくりを続けていけたらと思っています。